三島由紀夫の三十八歳のときの作品。
昭和三十八年。1963年。
三島の遺作となる連作『豊穣の海』の最終巻「天人五衰」の7年前の作品だ。
『豊穣の海』のような装飾的な文章ではない。小説の中の場面がゆっくりと遅く、多くの字数を費やして語られる。
やはり心理描写の細やかさには感心するが、ここでも三島由紀夫の幼児性を感じてしまう。よくいえば38歳になっても少年の心の世界を生き続けることができていたということだ。それは遺作となる『豊穣の海』まで続いていたのだろう。
こういった小説は今は書かれないだろう。書く気にならないだろう。書くことができないだろう。
触れることを恐れるというか、最初に現実に接したとき火花が散ってしまうというか、
三島由紀夫は観念が現実に触れることを嫌がっていた。観念が現実に触れたときに死ぬということを考えていた。
昭和の戦後という時代は、1970年代の終わり頃までは、ひどく真面目な時代だったのだ。
今では考えられないほどに。
もう人たちはそのようには生きられない。
小説の終わり方はよかった。
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