吉本隆明「芥川龍之介における虚と実」
昭和五十二年の『國文學』5月号に「130枚一挙掲載」の見出しで吉本隆明の「芥川龍之介における虚と実」という文芸評論が載っていた。
昭和五十二年というと1977年だな。
「けれどそのことは厳密にいえば不安や恐怖とは無関係な世界だといっていい。遭遇するあらゆる事象が偶然とはおもわれないように羅列されているとしたら、信じられる自己の存在が限りなく環をせばめようとしている証左である。そのために事象が欠けているときは存在しないのに創り出す(幻覚)ことをしなければならない。また代同物で置き代え(錯視)たりして補わなければならない。強い関係を渇望する心性が病んでいるからである。」
「たぶんその理由は、これらの精神の陥ち込みが生理的な異変に由来し(由来するかもしれないとしても)、且つその異変がつきとめにくい現状にあるからではない。精神が生理的な異変を感受しうる能力をもつという一点に基づいている。芥川はもっとも切実なもっとも孤独なたたかいを、誰にも告げられずにたたかいながら、消耗の果ての死におもむいた。」
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