ソルジェニーツィン「甦れ、わがロシアよ」を読む
『収容所群島』に胸を焼かれた者としては、なんとなくとまどってしまった『甦れ、わがロシアよ』だが、今、2021年にこれを読んでいると、これはこれでいいような気もしてくる。
この本には副題として「私なりの改革への堤言」という見出しもあって、ロシアの政治制度についての具体的な堤言がなされている。
この本が出されたのは1990年であり、ソ連時代の末期だ。ゴルバチョフの時代だ。ソビエト連邦の終わりと<次>を予感した人たちは、これからのソビエトとロシアのあるべき姿をめぐってカンカンガクガクだったろう。ソルジェニーツィンも発言したのだ。
発言の詳しいこと、具体的なことには感心する。ソルジェニーツィンはソ連の、ロシアの、社会と政治制度をよく知り、勉強している。
提言できるということは、ソビエトの、ロシアの、社会・国家はこうあるべきだというイメージがちゃんとあるからなのだ。激しくそれはあるのだ。
今、中国のまがまがしい圧力が強くなり、北にはプーチンのロシアが見え、民主主義の価値をあらためて思うけれど、アメリカの存在を心強く思うけれど、ソルジェニーツィンはその民主主義を、アメリカやヨーロッパの民主主義に対しても懐疑的な眼差しを持つ。
「われわれが民主主義を選ぶ理由は、民主主義が高潔な美徳に富んでいるためではなく、単に暴政を避けるためだけのものである。その欠点を認識して、それを克服する道を探索しながら、選ばなければならないのである。
現代においては、多くの新興国が民主主義を取りいれた途端に、破綻することがまれではないが、ほかならぬ現代においてこそ、民主主義は国家体制の一つから、いわば人間存在の普遍的な原則、ほとんど信仰にまで高められてしまったのである。」
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