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掘り出し物だった。
今この時代にソビエトの暗部を描こうとする人がいるのかと驚いたが、監督のアニエスカ・ホランドは1948年生まれのポーランド人だった。
これは若い世代が、アメリカの若い世代の映画監督がいま「世界初の社会主義革命の国」の闇を描こうとしているのかと思い、奇特な人がいるもんだとは思わなかったが、いったいどういう人がこういう映画を作るのだろうと思ったのだが、そういうことではなかった。
2019年に作られた映画。2年前だ。
制作国はポーランドとウクライナとイギリス。アメリカはいない。
実在したイギリス人ジャーナリストのガレス・ジョーンズの体験したソビエトの社会が物語の背骨になっている。
1930年代、世界中が不景気にあえぎ、ドイツではヒトラーの率いるナチスが政権をとった。ロイド・ジョージの外交顧問でもあったジョーンズは、イギリスとソ連が協力しナチスドイツと対抗するというプランを持っていた。それと同時に、この世界不況のなか何故ソ連だけが経済的に上手くいっているのか、そのわけを知ろうと思い、ソ連を取材に行くが、そこでソ連がひた隠しにしているあることに気づいてしまう。
ウクライナはよく知られた穀倉地帯だが、そこで穫れた穀物は地元のウクライナで使われていなかった。収穫した穀物はモスクワに送られていた。
ウクライナで穫れた穀物はソ連の外貨獲得の手段として使われていたのだ。ウクライナで収穫された穀物を外貨獲得の手段とするこの政策は徹底しておこなわれた。
ウクライナに飢餓が発生する。しかしウクライナの小麦はウクライナで食べられることはなかった。モスクワへと輸送され続けた。
餓死者が出、餓死者が増え、広がり、大飢饉となってもウクライナには小麦は残されない。数百万人の餓死者とこの映画では語られるが、400万人から1450万人とする見方がある。だからこの大飢饉は穀物を外貨獲得の手段にした、そのことによる結果ではなく、意図的な、当時の共産党の指導者のヨシフ・スターリンのウクライナに対する「政策」、ジェノサイドだという見方も出てくるのだ。
この事実をソ連共産党の治めるソ連は(分かってやってるんだから)当然秘密とするが、しかしガレス・ジョーンズのほかにも何か起っていると気づく外国からの新聞ジャーナリストはいた(当時は新聞がメインだった)。しかし彼らは「革命の国」ソビエトを批判することをためらった。「進歩の国」ソビエトを否定するような記事は書けないのだ。
ソビエトはマルクスという哲学上の最高の知性の到達点の現実化だった。英雄レーニンが革命を起こした国であり、恐慌を生む資本主義経済を克服する国だった。未来へと続く希望の国なのだ。それが当時のインテリ・知識人のソビエト観だった(この認識は長くながく続く)。
映画は気晴らしとして観たいというような精神生活をしていて、観るのは冒険アクション映画か、ファンタジーな「ハリー・ポッター」系統の映画というのがぼくの流れというか傾向なんだが、レンタルビデオ店の棚でこの映画を見つけたときは、観なければならないと思った。
そして観るに値する映画だった。
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