唐組「ビンローの封印」を観に行く
新宿花園神社で行われた唐組の第59回公演『ビンローの封印』。
再演ということだったと思うけれど、観たことあるんだろうか。唐組の芝居は1989年からずっと観ているけれども、観ているという記憶がはっきりとはない。
途中、1年か1年半くらい観なかった期間があるかもしれないので、そのときにやった芝居なのか。
観たという記憶がどうもなさそうだ。
観たというのはNHKだったと思うが、ドキュメンタリーのようなドラマのような番組で唐十郎が、台湾だったとおもうが、ビンローを、種のようなものを口の中に入れて噛むと赤い液体、粘液のようなものになってそれを口から吐き出すという場面を、映像を観たような記憶がある。
その日の新宿花園神社の境内では骨董品の市がひらかれていて、気はそそられるが買う気にはならないという微妙な品々がひろげられていた。人は多い。新宿花園神社というのは新宿という街の真ん中に空いている逃げ場なのだ。「空いている場」なのだ。ぼくはここに来るとホッとする。
唐組第59回公演『ビンローの封印』。
作=唐十郎
演出=久保井研+唐十郎
花園神社にある掘っ立て小屋のような受付で前売り券を整理券に替えてもらって、靖国通り沿いにある歩いて10分くらいのところのミスタードーナツまで真っ直ぐに行った。ぶらぶらとしなかった。唐組の芝居を観に来たときよく行っていた紀伊國屋書店へも寄らなかった。
そこで持っていっていたおにぎりを一つ食べ、ホットコーヒーを飲みながらオールドファッションドーナッツとエンゼルクリームとハニーディップを食べ時間をつぶした。
コーヒーのおかわりを頼んだが、4分の1くらい残した。
観たことのないような、初めて観るような役者が次々に出てくる。
うす暗い舞台の中央奥に赤い鳥居。
その向こうに「公衆便所」の文字。
地下に迷い込んだような舞台の雰囲気。
暗く、湿気に満ちて、影が多く、猥雑で雑多。どこか寂しい。
記憶のどこかにこの光景、風景があるけれどもそこの記憶の扉を開けてしまうのがちょっと怖い。そんな感じだ。
前半は硬質だなという印象。それ以上はつかめない。
岡田悟一、赤松由美、藤井由紀、辻孝彦、久保井研、福本雄樹という役者はよく知っているし、清水航平という役者もおぼえたけれど、あとはよく知らない役者たちだ。
前半が終わって休憩時間が10分ほどあるので、花園神社内のトイレに行って、出して、戻ってみたら自分の座っていた場所がどうも前と違っている。
変だなと思ったまま後半の芝居がはじまって分かったけれど、斜め後ろに座っていた女の客がぼくの座っていた所に移って割りこんでしまっていた。その客は芝居にどうしても集中できないようで、いろいろと動く。足にかけている何かの衣類のジッパーの開け締めをずっとやっている。
芝居に集中している人の振る舞いは気にならないが、集中できない人の振る舞いは気になってしまう。
ということで、後半の舞台はどうも集中できなかった。残念だ。少し運の悪い日になってしまった。
仕方ない。
ちゃんと観たという感じがないので、芝居についてはこれ以上のことは書けない。
よかったことは唐十郎が芝居が終わってからのあいさつに舞台に出てきたことだ。ひさしぶりに見た。花道をヨタヨタとゆっくり歩いて舞台に上がった。
思っていたよりも元気そうだ。帽子をとって頭を下げたら頭が見事に禿げ上がっていた。
いつかまた唐十郎が役者として舞台で動きまわる日がくるんだろうか。芝居のあと、舞台の中央に立って出演した役者たちをつぎつぎに客に紹介していくあの声がまた響くことがあるんだろうか。
舞台と現実の通路が開け放たれ、闇のなかに唐十郎たちが溶けていく。
五月。
こんなふうにしてぼくの『ビンローの封印』の夜は終わった。
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