吉本隆明+鮎川信夫「対談 文学の戦後」
これはひきこまれた。今回が一番いい読み方ができているかもしれない。
吉本隆明はもちろんそうだが、鮎川信夫も詩だけではなく文学全体を、政治や社会の動きをしっかりと見ながら戦後の社会を歩いているのがわかる。鮎川信夫のもつ常識というか知性というか反観念主義なところが、吉本隆明の<過剰>さと出会うと化学反応的に面白いものになる。
戦前、戦争、終戦、第一次戦後派、東京裁判のことなどのふたりの話は貴重だ。微妙さが必要なところで微妙に話せている。このふたりの歩んできたプロセスと個性でないとこういう話は出てこないだろう。
鮎川信夫が占領について言っている。
「というのは、言論の自由、思想の自由、結社の自由がないといったって、戦争期の経験からいったら問題にならない。作家だって、考えてみれば、戦後になって、たとえば谷崎潤一郎が『細雪』を完成して出した。それから、他の老作家が書いたものを見たって、ああいうものは全部、戦争中だったら絶対に出せないものでしょう。そういうこと一つ取ってみても、同じ言論の自由がないといっても、戦争期になかったのと違うということぐらいは、本当は絶対に言っておかなければいけないと思うのです。どっちもなかったといえばどっちもなかったよ。だからといってイコールじゃない。」
この対談がおこなわれたのが1979年。それまでに発表されている戦後の小説の中の気に入ったものを挙げている。これはほとんど代表的と思うものを挙げているという意味合いになるだろう。
吉本隆明【埴谷雄高「死霊」、野間宏「暗い絵」、太宰治「斜陽」、武田泰淳「蝮のすゑ」、大岡昇平「俘虜記」、中野重治「むらぎも」、三島由紀夫「金閣寺」、深沢七郎「楢山節考」、安部公房「砂の女」、島尾敏雄「出発は遂に訪れず」、古井由吉「円陣を組む女たち」、大江健三郎「洪水はわが魂に及び」
鮎川信夫【大岡昇平「野火」、深沢七郎「楢山節考」、円地文子「女坂」、谷崎潤一郎「瘋癲老人日記」、三島由紀夫「午後の曳航」、大江健三郎「個人的な体験」、高橋和巳「邪宗門」、安部公房「燃えつきた地図」、椎名麟三「懲役人の告発」、吉行淳之介「暗室」、古井由吉「杳子」、島尾敏雄「死の棘」
吉本隆明と鮎川信夫が挙げているということで読んだ小説が何冊もあるように思うが、どの小説だったのか、そのへんははっきり覚えていない。ひとつひとつ小説名を追っていくとほとんど読んでいる。武田泰淳の「蝮のすゑ」はさがしたけどみつからなかった記憶がある。あと安部公房の「燃えつきた地図」は読まなかったかもしれない。
吉本隆明は高橋和巳の「邪宗門」をボロクソにいっていたな。インテリの書いた大衆小説とかインテリ向けの大衆小説とか、しかしぼくは面白かった。いまでも持っている。
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