黒木和雄の「とべない沈黙」
阿佐ヶ谷まで観に行ったのはこれを観れば、黒木和雄監督の劇映画は全部観たことになるなという気持ちからだった。ビデオでも観たことはなかった。まったくの初見だった。
この映画が黒木和雄の劇映画のデビュー作のはずだ。
驚いたのはそのショットの斬新なこと。新鮮だ。観る位置、角度がよく選ばれていて、ハッとさせる。このことだけでも観に行ってよかった。映像のこのよさは想像を超えていて、晩年の作品群にはこの新鮮さ、斬新さはなかったと思う。
南の生きものであるナガサキアゲハという蝶ちょが北海道である少年によってつかまった。このナガサキアゲハはどうやってこんな北までやってきたのかという物語でもある。
『2001年宇宙の旅』では「長い板」が突然、奇跡的に画面にあらわれるのだが、『とべない沈黙』ではナガサキアゲハの幼虫が突然現れるのだ。毛虫系統が苦手の人は神秘性はもてないだろう。
俳優陣は多彩。加賀まりこ、蜷川幸雄(結構いい)、戸浦六宏(なつかしい。やっぱりセリフのキレのいい役者だった)、渡辺文雄(寺山修司をおもいだした)、長門裕之、小松方正(大過剰)、千田是也や東野英治郎といったところもでる。
最初のころはこれはデビュー作にして黒木和雄の代表作の一つになるのかと思えた。
1960年代の日本人の身体、風俗、風景が生々しくわかったりもするのだ。が、途中から感嘆の気持ちがだんだんうすれていった。
つめこみすぎだ。小松方正が扮する戦争中、兵隊に行っていた男が現地の愛人を、撤退するときだろう、現地の愛人とその家族を殺してしまい、あげくの果て、その愛人を食人してしまったらしいということが、短い映像の間に描かれるのだが、墓場で加賀まりことナニしているときに、そういうことを叫ぶのだが、そのもと兵隊の小松方正が大過剰の演技で、観ていて引けるくらいだ。やりすぎだ。
1966年に作られた時代の映画でもあるわけで、でてくる男たちはやたら悩むのだ。ATG映画でもある。かつては難解なものは分からねばならぬという時代の掟のようなものがあったが、今はもうないわけで、もうちょっとすっきりしたらどうだいと2014年に観たぼくは思ってしまうのだ。おそらくその日に観たすべての観客がそう思っただろう。
ニュース映画をはさんだり、じっさいのデモの情景に長門裕之といった俳優を飛びこませたり、殺人事件もベッドシーンもたっぷりあったりで、眼を楽しませてくれるけれど、どういっていいかわからぬ気持ちももつのだ。
しかしあのショットはよかったな。おおくある斬新でみずみずしいショット。それはよかった。それだけでも観に行ってよかったと値打ちがあったと誇張なくそうおもう。
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