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2010年10月 2日 (土)

「悪人」を観に行く

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 雨の日に『悪人』(李相日監督)を観に行く。

 キレやすいタイプの建物の解体の現場仕事をしている男(妻夫木聡)と紳士服の店で働いている女(深津絵里)の話。

 ふたりの年齢は妻夫木聡の実際の年齢29歳と深津絵里の37歳、そういうふうに観ていいのだと思う。

 いちおう若い男と若いとはいえない女。ふたりが出会うまでと出会い、また別れていくまでの物語。

 リアルな表現の映画で、まったく等身大の男と女の生活が、日常の立ち振る舞い、暮らしの風景が描かれていて、それがこの映画のいいところだと思う。いちばんの魅力だ。

 怒りのあまり付き合っていた女を殺してしまった男と決まったことしか起こらない生活のなかで年をとってきた女が出会う。出会い系のサイトで知り合ったのだ。毎日の暮らしから踏み出してみたかった一人ぼっちのふたりはやっと同じような気持ちをもつ相手にめぐり合うが、男はもう人を殺してしまったあとだった。

 印象的なのは妻夫木聡の演じる男の「目」だ。つめたい目をすることがある。自分でやってみる。視線を下に向けてから横の相手を見る。警戒心が強いのだ。そういう人間関係を生きてきた男なのだ。

 警察から逃げようとする男は女と短い旅をしたあと、警察に自首しようとする。警察署に向かって歩く。しかし女は警察署の前に立った男を呼びもどす。自首をやめさせても男との旅をつづけようとする。じぶんの孤独をはじめて癒した関係のために男を呼びもどす。

 ここで第二幕となる。これでいいんだと思う。深津絵里の女はあまりにも優しく寛大で、こんな女がいるんだろうかと思っていたところだ。深津絵里が自分の、女としての欲を出すことによって映画にのびがでてくる。

 逃げて灯台のある誰も住まない小屋で過ごすふたり。長いあいだ孤独だった女と男が海のそばで光と影をからみ合わせる。

 追う刑事たちがふたりの居場所をつきとめる。捕まる寸前、妻夫木聡は女を事件から遠ざけるために、自分の逃亡を助けたことを世間や警察に知らせないためにわざと女の首を絞めているところを刑事たちに見せる。

 そして男は女のために救いようのない犯罪者ということになってしまう。というふうにしか観えないのだが、当然女は男の深い愛を感じて、心の底に男の存在を受けとめながら、それからの生をいきていく、ということになるはずなんだが、深津絵里は本当に男が自分を殺そうとしたと思っているように映画は描く。そういう人間もいるということか。男がどういうつもりだったかは観客の判断にまかせるということだろうか、しかしここはあんまりうまく作られていない。観ていて燃焼できない。

 よかったのは妻夫木聡と深津絵里のそれぞれの暮らしの情景だ。とくに妻夫木聡の解体作業員の暮らしの風景はまったくリアルで、出会いを待つしかなかった男の日々というものが伝わってくる。

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