「大地の子守歌」を観にいく
初めから終わりまで主人公のりんを演じる原田美枝子の幼いが荒々しい存在感がオーラを放つ映画。増村保造監督は『刺青』でもそうだったが、女性の力強い生命力を描く。『刺青』にあった人工的なところがこの映画ではなくなっている。
『大地の子守歌』。監督・増村保造、脚本・白坂依志夫・増村保造、原作・素九鬼子。1976年の映画。
山で育ったりん(原田美枝子)は祖母と二人暮らし。山菜や山の獣を獲って食べて暮らしている野生児のような13才の少女だ。
祖母が急死したあと、りんは一人で山暮らしをするが、船乗り相手の色街がある瀬戸内海の島からやってきた女衒の佐吉にだまされて、島の茶屋に売りとばされてしまう。
負けず嫌いで悪い夢のような運命に引きずりまわされても体の芯の生命力を燃やして立ちむかっていく女性を描くことに増村保造はこだわっている。最初からなのか、あるいはある時期からなのか、まだ分からない。
望まないまま茶屋で下働きをするりんはまわりのすべてに反抗する。女で初めて娼婦を船まで運ぶ「おちょろ船」の漕ぎ手になって、その強烈な体力でまわりの人間をおどろかせたりするが、娼婦にされてしまう運命はあきらかだ。
映画は冒頭、四国をお遍路する「今」のりんを映す。お遍路するりんを映画はところどころ挿入して進む。りんは苛酷な体験から半ば失明している。
大地の子守歌とは人間への絶望に苦しむりんが、大地から呼びかけられる声のことだ。野宿の夜、闇に震え地にうつ伏すりんに祖母の声が、りんを助けた牧師の声が、人々の声が、りんを苦しめた茶屋の主人夫婦の声さえ聞こえてくる。りんの名を呼ぶ。りんの名を強く呼ぶ。くりかえし呼ぶ。力のこもった場面だ。大地の子守歌とはこの声たちのことだと思った。
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